百年森の草刈り

百年森の草刈り

11月最後の活動日は好天に恵まれたので、井の頭 自然の会にも声をかけて、百年森の草刈りを実施しました。合同の活動日は12月にも予定されているのですが、その日が好天とは限りません。両会から計7名の参加でした。

昆虫などは越冬の準備ができたようで、ほぼ姿を消したので、春の芽生えがしやすいように、今回はすっきり目に草を刈りました。それでも、産卵を済ませ命を終えようとしているジョロウグモや、成虫越冬のクビキリギスなどが見つかりました。冬を越す虫たちのために、刈った草は複数箇所に積み置きました。

草刈り後の百年森

空気が冷たいため、汗をかくと作業後に冷えてしまいます。頑張らないようにと言ったのですが、皆とても頑張ってくれたので、近くの「ミズタマソウ保護エリア」の草刈りも含め、やりたかった作業をほぼ終えることができました。

でも、12月の合同活動でやることがなくなったのでは?という心配は要りません。冬の間にやっておくべきことはまだあります。

湧水の影響

生き物の生息状況を調べるため、「オダアミ」という特製の網を池の数カ所に設置して、採れる生き物を記録しています。ワナというより休憩所で、出入り自由ですが、小魚やエビ類がよく入ります。ひょうたん池のドームカゴ(ザリガニワナ)にはザリガニ以外も入るので、それもモニタリングに役立ちます。

ヌカエビ  10月23日

大量の湧水が復活した後の10月23日、そのオダアミにヌカエビが今年初めて入りました。昔の井の頭池には大量にいたという在来エビですが、近年はほとんど見られなくなっていました。住処となる水草の消失、天敵となる外来魚の増加、競合する外来エビの増加などが激減の原因と考えられています。

オダアミで採れたヌカエビ  10月28日
ひょうたん池で獲れたザリガニ  10月18日

その後、採れるヌカエビの数は増え、オダアミだけでなく、ひょうたん池のザリガニワナにも入るようになりました。池の上流域でツツイトモなどの水草が復活したため、ヌカエビも生息数を増やしていたようです。水草が枯れる時期に大量の湧水が出たため、多くのヌカエビが切れ藻と一緒に下流へと流されてきたのだと想像しています。

湧水の影響と言えそうな変化はまだあります。ひょうたん池のワナに入るアメリカザリガニの数とサイズが急に3割ほど増えたのです。この時期にしては、例年よりも多いです。池から下ってきたのか、それとも神田川から遡上してきたのか不明ですが、私は後者だと考えています。池では井の頭かいぼり隊が継続的なザリガニ駆除活動をしているのに対して、野放しの神田川には今も大量のザリガニが生息していること、そして大量の湧水を神田川に流すため、池と川の境の堰板が全部外されていることが、そう考える理由です。

ドームカゴに入っていたギンブナ  11月17日

その後、湧水の量は次第に減ってきましたが、地下水汲み上げポンプは止めたままなので、池の水深が徐々に浅くなってきました。11月中旬ごろから起きているのが、ひょうたん池のザリガニワナに多数のギンブナが入る現象です。鱗が取れやすいフナが水深の浅いワナに入ると暴れて傷つくので問題です。水深が浅くなったからか、それとも水が澄んで見やすくなったからか、急に数を増したカワウがフナを追い回すので、ひょうたん池に逃げてくるのかもしれません。

調査用のワナを設置してモニタリングしていても、見えるのは池の真実の一部に過ぎません。しかし、池に何か大きな変化があると、その影響を受けて生き物たちの動きが普段とは変わり、見えなかった真実がちらりと見えることがあります。

湧水の変化

台風19号の豪雨は各地に大災害を及ぼしましたが、幸い井の頭公園には大きな被害がなく、井の頭池の湧水が復活するという良い効果も見られました。以下の写真は池の水が神田川に流れ出す堰のものです。我々は「水門橋堰」と呼んでいます。池のモニタリングの一環として、アメリカザリガニ駆除活動(ワナ上げ)のついでに写真を撮っています。井の頭池は神田川の源流なので、この堰から流れ出す水の量や質が神田川にとって重要です。そしてそれを見れば、井の頭池の状態もかなり分かります。

2019年10月11日の水門橋堰
10月11日(台風前日)の水門橋堰

左は台風19号が来る前日の写真です。池の水位を変えるための高さ10cmの堰板が2段取り付けられていました。また、この時までの池にはポンプで汲み上げた地下水(約4,000トン/日)が供給されていました。池底からの湧水が無い時は、給水しないと水が濁り、さらには水が抜けて渇水してしまうからです。この時の水も透明度は今ひとつでした。

 

10月13日(台風翌日)

10月13日、台風翌日の状態です。大量の降雨によって池の水位が上がり、神田川へ流れ出す水量も増えました。水が濁っているのは、雨水と一緒に池に流れ込んだ泥のせいです。この時点で、地下水汲み上げポンプは止められていたそうです。8基あるポンプを動かすには電気代だけでもかなりの額なので、願ったりです。

 

10月18日

5日もすると、池の水がとても澄んで来て、堰を流れる水も透明になりました。大量の水を排出するため、堰板が1段にされていました。ポンプが止まっているのにこれだけの水が流れ出しているのは、池底から大量の湧水が出ているからです。

 

 

10月26日

10月26日です。一時は少し減った水量が再び増えていました。台風の後にも大雨があったからですが、水が澄んでいるので、単に雨が池に降ったからではなく、地下水となって池底から湧き出しているからだと分かります。この時期の流出量が今回の最大レベルで、3万トン/日もあったそうです。

 

11月15日

その後は湧水が徐々に減少し、11月15日の流量はこの程度になりました。まだポンプは止まったままです。堰板が全部外されているので、池の水位がだいぶ低くなっています。元々浅いひょうたん池では、我々のザリガニワナに影響が出始めました。さらに下がって他の場所にも悪影響が出始めれば、堰板を増やしてポンプを再稼動すると思いますが、公園管理者としてはなるべく遅らせたいようです。その理由は、造成した浅場を露出させてそこの生き物に刺激(外乱)を与えたいのと、地下水を汲み上げないほうが湧水が出やすいと考えているからだそうです。

井の頭池の湧水は、昔から、季節(降水量)により大きく変動します。堰板を設けなければ池の水位も変動します。どの生き物にはどんな変動が望ましいのか、目指すべき池の姿を決めるのは簡単ではありませんが、今回の一連の水位変化が池や池の生き物にどんな影響を与えるのか、注目したいと思います。

念のために書いておくと、井の頭池の湧水を増やすのに豪雨が必要なわけではありません。大事なのは地下水位を高くすることで、そのためには、雨水の地中への浸透を促すことと、地下水を使いすぎないことが必要です。短時間で流れ去ってしまう豪雨よりも、持続的な対策が効果的です。井の頭池に湧水が湧く頻度がひと昔前より増えたのは、近隣の自治体や住民のそのような取り組みが実を結びつつあるからです。

 

百年森 11月の合同活動

井の頭 自然の会と、百年森の合同活動を実施しました。このところ台風などで天気が悪い日が多く、活動可能かつ多くの人が参加できる日を見つけるのに苦労しています。今日の参加者もちょっと少なめの6名でした。

草刈りのようす
百年森の草刈り

作業のメインは百年森の選択的除草です。ここには生えていてほしくない外来植物を掘り取り、枯れ始めた在来植物を刈り取ります。外来植物はこれまで繰り返し除草してきたので、初夏から初秋に比べると、大幅に減りました。在来植物もほとんどが種子を作り終えて枯れ始めているので、来春の芽生えがしやすいよう、その多くを刈り取ったり抜き取ったりしました。先月の活動では、公園の他の場所ではほとんど見かけない野草が複数種類生えてきたのを確認しましたが、今日の活動でも複数の種類の若木を新たに見つけました。百年森の世話を始めてまだ半年ですが、徐々に多様性が高まってきているのを感じます。

人数が多くなかったので、今日は全部の範囲はできませんでした。年内には全域の草刈りを終える予定です。

作業後の百年森

右の写真が作業後のようすです。かなりの量の草を除去したにもかかわらず、すっきりしない、変わり映えがしない、という意見もあるかもしれません。でも、それが大事だと考えています。生き物最優先の場所ですから、それまで暮らしていた生き物が突然居場所を失うような草刈りは避けたいのです。刈り取った在来植物や拾った落ち枝は、生き物たちの隠れ場所になるよう、数カ所に積み置きました。気温もだいぶ下がってきたので、作業中に見かける虫の種類や数はだいぶ少なくなりましたが、日が暮れるころそばを通った人によると、草むらでたくさんの虫が鳴いていたそうです。

実栗

澄み切った池と水草  10月30日

活動日の10月30日、弁天池はこんなに透明で、池底に水草が生えているのがよく見えました。写真でいちばん目立つ茂みは、水草調査の人によると、ミクリかナガエミクリだそうです(ここでは両方をまとめてミクリと書きます)。ちなみに、奥の短くて黒っぽく見える茂みはイノカシラフラスコモだそうです。

11月6日

もっと美しく見えるように、1週間後の活動日に、池に下りる坂の途中から撮ってみました。これらの水草は、水が澄んで、池底で眠っていた種子(イノカシラフラスコモは胞子)に日光が届くようになったので芽生えたのでしょうが、抽水植物のミクリが水深1メートル以上の池底に茂るのは意外でした。そこで、弁天橋の脇の茂みを水中カメラで撮影してみました。

水中のようす  11月6日

それがこの写真で、細長い葉は確かにミクリのようです。ミクリは抽水植物ですが、小さいときは沈水植物として育ちます。そして、ある程度生長すると、しっかりした茎を空中まで伸ばし、そこに雌花と雄花を咲かせ、クリのイガのような形の実を付けます。ミクリは漢字で書くと「実栗」です。

気になるのは、これだけ茂ったミクリが今後、茎を水の外まで伸ばして、種子を作るのかどうかです。今年は沈水植物のまま枯れそうです。多年草らしいので、来年も伸びてくるでしょうが、種子を作れなければジリ貧です。最初のかいぼりの後に七井橋脇の水中に芽生えたミクリは結局姿を消してしまいました。

神田川のミクリ  7月26日

実は、神田川の上流部にはミクリが生えています(ミクリもナガエミクリもあります)。小さいときは沈水植物として流れに身をまかせ、生長すると流れに負けず立ち上がり、抽水植物となって実を着けるのを見ると、ミクリがいちばん得意なのは、水深が浅く流れがある、川だと思います。生育に適した場所が減少しているため、絶滅が危惧されている、貴重な水生植物です。

昔の井の頭池は今よりだいぶ浅かったのか、それともミクリは水深があっても問題ないのか、注目しています。