湧水の変化

台風19号の豪雨は各地に大災害を及ぼしましたが、幸い井の頭公園には大きな被害がなく、井の頭池の湧水が復活するという良い効果も見られました。以下の写真は池の水が神田川に流れ出す堰のものです。我々は「水門橋堰」と呼んでいます。池のモニタリングの一環として、アメリカザリガニ駆除活動(ワナ上げ)のついでに写真を撮っています。井の頭池は神田川の源流なので、この堰から流れ出す水の量や質が神田川にとって重要です。そしてそれを見れば、井の頭池の状態もかなり分かります。

2019年10月11日の水門橋堰
10月11日(台風前日)の水門橋堰

左は台風19号が来る前日の写真です。池の水位を変えるための高さ10cmの堰板が2段取り付けられていました。また、この時までの池にはポンプで汲み上げた地下水(約4,000トン/日)が供給されていました。池底からの湧水が無い時は、給水しないと水が濁り、さらには水が抜けて渇水してしまうからです。この時の水も透明度は今ひとつでした。

 

10月13日(台風翌日)

10月13日、台風翌日の状態です。大量の降雨によって池の水位が上がり、神田川へ流れ出す水量も増えました。水が濁っているのは、雨水と一緒に池に流れ込んだ泥のせいです。この時点で、地下水汲み上げポンプは止められていたそうです。8基あるポンプを動かすには電気代だけでもかなりの額なので、願ったりです。

 

10月18日

5日もすると、池の水がとても澄んで来て、堰を流れる水も透明になりました。大量の水を排出するため、堰板が1段にされていました。ポンプが止まっているのにこれだけの水が流れ出しているのは、池底から大量の湧水が出ているからです。

 

 

10月26日

10月26日です。一時は少し減った水量が再び増えていました。台風の後にも大雨があったからですが、水が澄んでいるので、単に雨が池に降ったからではなく、地下水となって池底から湧き出しているからだと分かります。この時期の流出量が今回の最大レベルで、3万トン/日もあったそうです。

 

11月15日

その後は湧水が徐々に減少し、11月15日の流量はこの程度になりました。まだポンプは止まったままです。堰板が全部外されているので、池の水位がだいぶ低くなっています。元々浅いひょうたん池では、我々のザリガニワナに影響が出始めました。さらに下がって他の場所にも悪影響が出始めれば、堰板を増やしてポンプを再稼動すると思いますが、公園管理者としてはなるべく遅らせたいようです。その理由は、造成した浅場を露出させてそこの生き物に刺激(外乱)を与えたいのと、地下水を汲み上げないほうが湧水が出やすいと考えているからだそうです。

井の頭池の湧水は、昔から、季節(降水量)により大きく変動します。堰板を設けなければ池の水位も変動します。どの生き物にはどんな変動が望ましいのか、目指すべき池の姿を決めるのは簡単ではありませんが、今回の一連の水位変化が池や池の生き物にどんな影響を与えるのか、注目したいと思います。

念のために書いておくと、井の頭池の湧水を増やすのに豪雨が必要なわけではありません。大事なのは地下水位を高くすることで、そのためには、雨水の地中への浸透を促すことと、地下水を使いすぎないことが必要です。短時間で流れ去ってしまう豪雨よりも、持続的な対策が効果的です。井の頭池に湧水が湧く頻度がひと昔前より増えたのは、近隣の自治体や住民のそのような取り組みが実を結びつつあるからです。