カワヂシャとオオカワヂシャの関係

カワヂシャの保護活動を始める前、年々数が減っていくのを眺めていて、不思議に思うことがありました。

疑問1)オオカワヂシャがあるとなぜカワヂシャが減るのか?

疑問2)年々数が減っているのに、減る速度が遅く、なかなか絶滅しないのは何故なのか?

カワヂシャを育てて観察したら、疑問2)の答えはすぐに分かりました。カワヂシャは自花受粉でも結実するのです。花粉を媒介する昆虫がいれば他の花の花粉を受け取って結実しますが、その機会が訪れなかった時は、花が閉じる際に自分のおしべをめしべにくっつけて、自花授粉をするのです。同じオオバコ科クワガタソウ属のオオイヌノフグリと同じしくみです。花粉媒介昆虫が来ない室内で1株だけで育てたカワヂシャにも夥しい数の種子ができました。ぞして、自花受粉でできた種子にも高い発芽率があることを確認しました。

それに対して、疑問1)の答えを見つけるのは簡単ではありませんでした。特定外来生物のオオカワヂシャを栽培するのは違法なので、実験ができないのです。ただ、多数のオオカワヂシャに囲まれた場所より、周りにオオカワヂシャが無かった場所の方が、翌年芽生えるカワヂシャの数がはるかに多いことに気づいていました。ある日テレビを観ていたら、植物の専門家がその理由を説明していました。カワヂシャの柱頭(めしべの先)に着いたオオカワヂシャの花粉が花粉管を伸ばしてしまうと、カワヂシャは結実できなくなるそうです。

なお、その逆、オオカワヂシャの柱頭にカワヂシャの花粉が着いた場合は、結実して、その種子から「ホナガカワヂシャ」と呼ばれる雑種が芽生えるけれど、それに繁殖力は無いのだそうです。

カワヂシャを復活させる方法が分かりました。周りのオオカワヂシャをできるだけ駆除すればよいのです。その際は、上流側からオオカワヂシャの駆除を進めるのが効果的です。オオカワヂシャもカワヂシャも、種子は川に流されて広がるからです。我々はカワヂシャを種子から育てて川に移植する活動もしていますが、それは必ずしも必要ではありません。

なお、雑種のホナガカワヂシャの識別はどうするんだという質問を受けることがありますが、問題ありません。特定外来生物の雑種は特定外来生物です。カワヂシャらしくないものは駆除すればよいのです。